「妊娠9週で手術に成功。入院日誌に『先生はブラックジャックみたい』と書きました。」
レポートNo.8

加藤恵子(39歳)
●結婚11年目の出産
95年の12月15日、妊娠38週目に帝王切開で長女南(みなみ)が産まれました。2200グラムと小さくはありましたが、産声がとても大きくて、元気いっぱい。「元気な赤ちゃんですよ」と言われて、言葉にならない感激がこみ上げてきたのを今でもはっきり思い出します。

加藤さん親子南は斎藤先生に救っていただいた子どもです。結婚11年目に初めて授かった子ども、しかも1000グラムを超える筋腫がある子宮に宿った生命でした。

その年の春、風邪のような症状が長らく続いて体調が思わしくないので、近所の病院に行ったところ、全く思いがけなく妊娠していることがわかりました。「妊娠はしていますが、大きな子宮筋腫があるので、すぐに流産する可能性が高い」というのが、その時の医師の診断でした。


●子宮筋腫はわかっていた
結婚後10年も子どもに恵まれなかったので、妊娠しているという診断にはビックリしましたが、子宮筋腫があることには驚きませんでした。というのは、前年の秋に、たまたま受けた区の子宮がん検診で「筋腫がありますよ」と言われていたからです。

その時に、子宮筋腫がどんな病気なのか知りたくて、家の近所の図書館で読んだのが斎藤先生の『子宮をのこしたい 10人の選択』でした。検診時に「筋腫がかなり大きいので、いずれ手術することになるだろう」と告げられていたので、どうせ手術するなら広尾で、斎藤先生の子宮保存手術を、と心に決めてはいました。

検診後すぐに広尾に行かなかったのは、差し迫った自覚症状がなかったからです。たしかに、生理3、4日目あたりは出血量が多くて、夜は腰の下にタオルを敷いて寝ないと心配な状態でしたが、それも1カ月のうちの数日のことなので、それほど深刻には考えていませんでした。


●「どうして掻爬するの」と先生
しかし、妊娠がわかって、筋腫があるために流産すると言われれば、話は別です。なんとかならないものか、すぐにでも先生に診ていただきたくて、本をたよりに早速、広尾に電話をしました。斎藤先生に診ていただいて、それでもダメなら仕方ない、という気持ちでした。

初診は5月10日。診察を受けながら私は「どうせ流産するものなら、子どもは諦めますので掻爬して筋腫だけ取って子宮は残してください」とお願いしました。すると、先生は「どうして赤ちゃんを掻爬するの。エコーでは元気だったよ」とおっしゃいました。胎児を守りながら筋腫だけを取り除くという手術ができるなどとは夢にも思わなかった私は、胎児を掻爬するのも止むなしと考えていたのですが、先生はすでに私の前に2人、妊娠中の患者さんの子宮保存手術を成功させておられたのです。

とにかく、流産が始まらないうちに手術していただきたくて、無理をお願いして5月22日が手術日と決まりました。すでに2人の患者さんの手術が決まっているところに割り込むようなかたちで、この日の手術は3人ということになりました。

私の手術は3番目、夕方から始まりました。胎児を守りながらの手術とあって、切開部は12センチと長く、3時間近くかかりました。摘出された筋腫は1515グラム。こんなに大きな筋腫があったのでは、胎児の命は時間の問題だっただろうと思いました。
通常は金曜日に退院するところを、術後の胎児の様子を見るために1週間多く入院させていただいたのですが、入院中のことについて「入院日誌」から抜粋したいと思います。


●入院日誌から
手術の直後は痛くて日記を書くどころではありませんでしたが、痛みが和らぐにつれ退屈を紛らすため手帳にその日の出来事を書き付けました。以下は入院日誌からの抜粋です。手術した日とその翌日、翌々日分は、後で書いたものです。

5月22日(月)
 8:30入院。1階左奥の部屋。点滴2本して待機。うがいもダメとのこと。PM4:30〜7:30手術。手術中とその後2、3時間は酸素マスクが付いていた。夫、9時過ぎ帰る。夜半少しずつ痛くなるが、麻酔が効いていて下半身が動かない。しびれていて看護婦さんに2回動かしてもらうよう頼むが麻酔が効いていると曲げても伸びてしまうとのこと。


◇ ◇ ◇
5月23日(火)
 AM5時か6時頃、ようやく右足が動くようになるが、左足はまだ動かない。ずっと同じ姿勢なので背中が熱く、気持ち悪い。腰や足もきつい。体中が動かないので、ほとんど眠れない。麻酔がだんだん切れて足が少しずつ動くようになってくると、腹部の痛みも徐々に強くなってきて、今度は痛みで体が動かせない。朝7時頃、麻酔切れたよう。

 お小水の管、体液の管、もう1本の管、両手に点滴。終日絶対安静。タオルを絞ってもらって、顔と口の中をふく。せき込んだりすると大変なので、うがいもダメ。2時頃、夫来る。午後になって時折うとうとできるようになる。お小水の管、違和感あり。そのせいもあって眠れない。夕食に思いがけず、お茶、水が出る。


◇ ◇ ◇
5月24日(水)
 朝食にプリン(大きいので半分残す)。午前中、手術室まで看護婦さんに付き添われて、先生にお小水の管ともう1本の管を抜いていただく。戻ってきてトイレ、はじめちょっと痛かったが、すっきり。ウオッシュレットもして嬉しかった。ついでに歯磨きをして口をきれいにし、点滴がついているので顔は拭くだけにしておく。電動ベッドに戻り、看護婦さんに寝かせてもらう。

 先生に寝返りを打って早くガスを出すように言われるが痛くてちょっと無理。動かないのも疲れるし、動いても痛い。動いたほうが精神的には落ちつくのだが、何をしても痛い。夫、3時頃来てくれる。痛がりながらも歩いてトイレに行くのを見て、少し安心してくれる。

 昼食はおもゆとお茶。夕食は何だったか?少しご飯粒が入ったおもゆ?と家から持参したヨーグルトキノコを1口だけ食べる。


◇ ◇ ◇
5月25日(木)
 夜中にお腹が張って痛いのでトイレに行き、ガスが出てお腹が張っていたのが治る。手術室にて最後の管を抜く。消毒の薬がしみる。

 朝食はお粥、昼食は鍋焼きうどん。1時に母と妹が来る。元気そうで安心してもらう。テレビや新聞を見たり、おしゃべり。看護婦さんに2階のリビングまで連れていってもらい、3人で麦茶をいただいて飲む。その後、待望のシャワーを浴び、髪も洗う。お腹はテーピング。ドライヤーまでして部屋に戻る。その間に看護婦さんが着替えの洗濯までしてくださる。さわやかになって4:30に夕食。全粥、しゃけ、卯の花、煮物など。おいしいが量が多いので、3分の1しか食べられない。夜になってお腹がすくのだ。

 7時過ぎ、山崎さん(同じ日に手術をした)に来ていただき、初めてお話をする。彼女はもう点滴が抜けていた。9時頃までおしゃべり。テレビを見て10時頃就寝。だいぶよく眠れる。


◇ ◇ ◇
5月26日(金)
 朝7時に検温。まだ眠い。朝食はパン、サラダ、スープ。点滴はまだ2本。黄色い方のビタミン剤は昼までに2袋が終わってしまうが、もう1本はシャワーの時以外、外れたことがない。お腹もすかないし、暇なので午前中廊下を歩く。部屋に戻っていると、今日の昼食は2階で一同揃ってとるとのこと。ビックリ、嬉しい。ヒラメのサラダ、かぼちゃ、じゃがいも、豆ご飯、もずく、タラなどにワインと麦茶のご馳走。食べきれない。手術から1年目の佐野さんもいらしていて、私たち患者、看護婦さん、事務の方、みんなでお食事をする。締めくくりはケーキ、コーヒー、フルーツ。食べ過ぎた。

 夕食は4:30なので全然(4分の1しか)食べられなくて、8時過ぎにお腹がすいてしまう。検温の時に看護婦さんにそう言ったら、「少々お待ちください」と言って、2、30分したら本当に4度目の食事が出てきた。ビックリ、残さず平らげる。


◇ ◇ ◇
5月27日(土)
 午前中に思いがけず出血。トイレに入っていて、出血する。すぐナースコールを押す。先生が見て手術室へ。内診して「大丈夫」と言われ、部屋でしばらく休む。同じ日に手術した山崎さん、松井さんが退院の挨拶にみえる。


◇ ◇ ◇
5月29日(月)
 午前中に超音波で見てくださる。なんと子どもは元気だ。ピョンピョンはねて手足をバタバタしているとのこと。そう言われるとそう見える。元気でよかった!これでも手術の傷があるので見にくいとのことで、4カ月(後2週)したらもっとよく見えて、性別もわかるそう。感激して泣いてしまう。退院は金曜日頃とのこと。

 昼食は夫の分まで親子どんぶりを持って来てくださる。こんな天国みたいな病院はないと思う。先生の腕前もブラックジャックみたいで、あんなに大きな筋腫を取ったのに、もうあまり痛くないのだ。子どもも無事で夢のよう。嘘じゃないと思うたびに嬉しくて涙が出てしまう。

 先生が先週金曜日の食事会のアルバムを持ってきてくださる。夕食はアコウダイの煮付け、茶碗蒸し、さといもとコンニャクの煮物、ご飯、お吸物、みかん。(多かったので、ご飯とアコウダイは半分残してしまう)


◇ ◇ ◇
5月30日(火)
 寝ていると腹部のテープのところがかゆい。3時過ぎと7時半頃、ナースコールしてしまう。1:30PMからシャワー。シャワーの後、オレンジジュース。薬を付け替えてもらい、今日からガーゼになる。でも、かゆい。

 今まで前かがみでいたせいか腰(尾てい骨)が痛い。看護婦さんが湿布をしてくださり、円座も貸してもらう。夕食はサンマ、大豆の煮物、鶏肉のたれ焼き、キノコのマヨネーズ和え、ご飯、味噌汁。夫に電話して、10時頃寝る。


◇ ◇ ◇
5月31日(水)
 7時過ぎ、さわやかな目覚め。朝、パン。昼、ちらし寿司。昼食後、先生が2階で今週入院の田中さんに引き合わせてくださる。手術3日目なのに、明るく笑いながらお話するので(痛くないのかなあ)とビックリしてしまう。そこへ妹が来る。先生が和菓子を買ってきてくださり、看護婦さんたちとご馳走になり、2時間近くおしゃべりする。

 夕食は酢豚、カボチャの煮物、きゅうりとホタテのサラダ、長芋の刻んだもの、ご飯、味噌汁。夕食後、看護婦さんに腹部の薬を付け替えてもらう。テープのところ、相変わらずかゆい。


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6月1日(木)
 かゆいのとちょっとチクチクするのを除けば気分爽快。午前中に先生がいらして、明日の食事会が終わったら退院してよいとのこと。嬉しい!

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