腺筋症を手術して1年半、今、妊娠7カ月です
レポートNo.23 

山中かおる(35歳)
●腺筋症を克服しての妊娠
山中かおるさん今週から妊娠7カ月目に入ります。先日、斎藤先生にエコーで診ていただいたら、赤ちゃんは男の子ということでした。月数のわりにはお腹が大きくて、「もうすぐ?」と近所の人に聞かれるほどです。

根が楽天的なせいか、腺筋症で手術したあとも普通に妊娠できるものだと思っていたので、今回の妊娠も私たち夫婦にとっては予定通りのことだったのですが、現在かかっている産院の先生やみなさんから「腺筋症を手術で治して、妊娠した例はとても珍しい」と言われて、かえって驚いてしまいました。手術のあとで斎藤先生に「術後、生理が普通にくるようになれば子供をつくっても大丈夫」と言われていたので、手術を受けて腺筋症が治ってよかった、と単純に思っていたのですが、斎藤先生からも「腺筋症の患者が術後、妊娠したケースは他に報告がないほど貴重なケース」と聞かされて、改めて先生に感謝するとともに、お腹のなかですくすくと育っているこの生命を大事にしなくてはと思っています。


●最初の妊娠で病気を知る
今回の妊娠は、実は2度目です。最初の妊娠は結婚して4、5カ月がたった頃で、生理の遅れが気になって妊娠試験薬で確かめてから、近所の開業医に行きました。エコーで診ていただいたら、「筋腫がありますね。こういう場合は妊娠の継続がむずかしいので、この妊娠は大切にしたほうがいいですよ」とのことで、びっくりしてしまいました。

これまで子宮に病気があるなどと疑ったこともありませんでしたし、生理痛が特別強いという自覚もありませんでした。ただ、手術してから振り返ると、出血にレバー状のものが混じっていたり、出血が多かったという点では、やはり正常の生理ではなかったと思います。開業医の「この妊娠は大事にしたほうがいいですよ」という言葉に衝撃を受けて、大きな病院できちんと検査を受けて流産しないようにしなくては…と、さっそく東京医大病院にかかることにしました。東京医大での初診では、エコーに胎児は映りましたが心音は確認できず、「3週間後にまた来てください」と言われました。そして、2度目の診察日、やっぱり心音は確認できませんでした。

ところが、病院から帰宅したその日に出血。あわてて病院に戻り、そのまま入院となりました。流産の始まりのようでした。結局、数日後に流産は決定的となり、掻は手術を受けることになりました。


●効くという健康食品にも頼った
私が真剣に病気と向き合ったのは、この流産がきっかけでした。最初に行った開医の「筋腫がある人は妊娠しにくい」という言葉がまたしても思い出されて、なんとかしてこの病気を治さなくては、と流産から3ヶ月ほどして東京医大でMRIの検査を受けました。

筋腫に効くと言われるものは何でもやってみようと、民間療法をあれこれ試してみたのもこの頃です。モグラの黒焼きの粉末が効くと勧められて、4カ月ほど飲んでみました。東京でモグラの黒焼きを扱っているのはここ1軒という神田のお店で、ご主人のおばあさんは「筋腫なんかモグラの黒焼きですぐに治ってしまう」と言っていましたが、後になって広尾に初めて行ったときに、その週に手術した患者さんの筋腫を見せてもらい、「こんなに硬いものがモグラの黒焼きなんかで治るわけないなあ」と思ってしまいました。

モグラの黒焼きをはじめ健康食品だけで、ひと月に4、5万円は使ったでしょうか。そんな日々のなかでも、広尾のことはずっと頭の片隅にありました。ずっと前に朝日新聞で紹介されていた「レーザーメスを使った子宮保存手術」の記事と、その病院が「広尾クリニック」という名前だったことを覚えていたのです。「たしか、子宮筋腫の駆け込み寺って書いてあったなあ」と記憶の糸をたぐりよせて、そこに行けばなんとかなりそうな気がしていたのです。


●「広尾?マユツバじゃないですか」
東京医大での診察のときに、担当医に「広尾クリニックってご存知ですか?」と聞いたことがあります。ちょうど私と同年齢のその医者は「広尾?名前は知っているけど、マユツバじゃないですか」と答えました。このときの担当医の口ぶりに不信感をもった私は、やっぱり広尾に行こう、と心に決めました。

そして、主人とともに図書館や本屋をあちこち廻って、広尾についての情報を探し出し、ようやく手にしたのが斎藤先生が書かれた『子宮をのこしたい』の本だったのです。

東京医大で撮ったMRIの画像を持って初めて広尾で診察を受けたとき、斎藤先生は画像を見ながら「腺筋症ですね。でも、手術で治せるし、子宮の機能もちゃんと残せます」とおっしゃいました。筋腫だと思っていた私には腺筋症と筋腫がどのように違うものなのかはよくわかりませんでしたが、病気の診断と解決法がはっきりした以上、早く手術して治したいと思いました。

広尾の患者さんの多くは、斎藤先生にたどり着くまでにあちこちの大学病院を転々とし、何年も回り道をして、その結果、病気が重症化してしまうと聞いたことがあります。

私の場合は、モグラの黒焼きを試してみたりという回り道はありましたが、広尾のことを断片的にしろ記憶していたことで、短期間のうちに斎藤先生にたどり着けたのは幸せでした。


●斎藤先生に続く医者が出てほしい
手術をしたのは、ちょうど2年前の4月8日。摘出したのは75グラムで、やはり腺筋症でした。「将来の妊娠に備えて、内膜に傷をつけないように腺筋症の病変部分を全部取り除いた」と説明を受けて、これでもう大丈夫、また妊娠することができる、と私たち夫婦は単純に喜びましたが、実は腺筋症を手術で治すことも、術後に正常な妊娠をすることも他の大きな病院では到底叶えられないことだと知って、「なぜ、他の病院ではできないの?!」という気持ちが強いのも事実です。

これほど医療技術が進歩しているのに、そして、たくさんの患者がこの病気で苦しんでいるのに、なぜ斎藤先生に続く医師が出ないのか、とても残念です。私のように腺筋症であっても、それを手術で克服し、妊娠の喜びと生まれてくる生命を待つ幸せを、夫婦で手に入れることができる女性がもっともっと増えてほしいと思います。
術前(pre-ope)のMRI 術前のMRI 術後3カ月のMRI
術前(pre-ope)のMRI 術前のMRI 術後のMRI


術 前(pre ope) 術後3カ月(post ope)
赤血球(RBC) 360 423
ヘマトクリット(Ht) 31.2 33.0
血色素(Hb) 11.0 13.2
CA-125 128 27
備考 病 理:腺筋症(Adenomyosis)
術後2年(妊娠)、現在(H10.4.7)
妊娠6ヶ月(Pregnancy)
横切開8cm、摘出物75gm


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