「腺筋症とわかって、初めて自分自身と向き合った」
レポートNo.24 

鈴木明代(46歳)
●「全摘」を一度は受け入れた
もともと身体は丈夫な方なので、病院とは無縁に生活してきました。だから、お医者さんの言うことはアタマから信じてしまうタイプで、初めて行った婦人科で「子宮 筋腫があるから、全摘手術をしたほうがいいですね」と言われたときも、ショックではありましたが、「手術が必要だというのなら、子宮を取るのはイヤだけど仕方ない か…」と半ば諦めの心境で、手術を受ける気になっていました。

初めて近くのT総合病院の婦人科に行ったのは、おととしの10月のことです。受 診のきっかけは軽い膣炎にかかったことだったのですが、そこで子宮筋腫があると診断されたのです。そういえば、生理のたびに下腹部がすごく痛くなるし、出血も多かっ たので、子宮筋腫との診断に疑いをもちませんでした。

「1カ月後にベッドが空くので、手術をしましょう。ご主人にも説明しますから、連れてきてください」と言われ、その次の診察のときには主人にも一緒に行ってもらいました。子宮を全摘するという説明に、主人も「病気だから仕方ない」と思ったようでした。


●待てよ、もう少し情報を得なくては
手術を待つ間、私はほかの病院にも行ってみようという気になりました。友人に手術のことを打ち明けたら、「1カ所の診断で簡単に手術を決めてしまわないで、ほかの病院でも診てもらったら」と言われたからです。

まずT総合病院の系列のT産院に行ってみました。全摘手術を受けるつもりではい ましたが、あえて「薬か何かで、全摘でなく治せる方法はありませんか」と聞いてみたのです。すると、診察してくれた院長先生は「筋腫だけを取る核出手術があります よ」と教えてくれました。なんだ、子宮を残せる方法もあるんじゃないか、と急に目の前が明るくなって、「やっぱり、違う先生に診てもらってよかった」と思ったものです。

ところが、核出手術に希望をつないで検査を受けたものの、次にT産院に行くと、その日の医者は「MRIを見たら、とても核出手術はできない」と言うのです。どうして、こうも医者によって言うことが違うのだろう。それまでは医者を疑うことを知 らなかった私の心に、初めて「待てよ、簡単に全摘手術を決めてはいけないんじゃないか」という気持ちが芽生えてきたのです。

このときから私の病院めぐりが始まりました。都心のO病院では「腺筋症ですね」と言われ、T大学病院では「内膜症ですね」と言われました。子宮筋腫と腺筋症の違いもわからないまま、私はそのつど違う診断結果に戸惑い、どうしたらいいのかわからなくなっていました。


●解決法は自分で決めるしかない
病院めぐりをしていた半年あまりは、今思い出しても辛い日々でした。どこの病院でどのような治療を受けたらいいのか判断できない悩みに加えて、あちらの病院、こちらの病院と動けば交通費もかさむし、病院を変わるたびに同じような検査をするので検査費用もばかにならない。精神的にも経済的にもきつい日々のなかで、私は初めて自分自身と向き合い、自分と対話したように思います。これまでにもいろいろな悩みを抱えてはきましたが、子宮の病気はそれまでのどの悩みよりも大きく、しかも、その解決法は自分で決めるしかなかったからです。

病院めぐりをしながら、せめて自分の病気を正しく理解したいと思い、図書館で本を捜したり、新聞や雑誌に関連記事が載っていれば切り抜いたりしました。斎藤先生の『子宮をのこしたい10人の選択』に出会ったのは、昨年の5月ごろ、家の近くの図書館でした。子宮に関する本のなかから『子宮をのこしたい』を手に取ったのは、これが一番読みやすかったからですが、今にして思えば、たくさんある書物のなかから斎藤先生の本を選んだ自分自身をほめてあげたいと思います


●自分にとって必要な投資
斎藤先生の本を読んですぐに、半分は手術を受けるつもりで、行くだけは行ってみよう…と広尾を訪れました。エコーで診察した先生は「おそらく腺筋症でしょう。でも、手術で治せるし、子宮も残せます」とおっしゃいました。

手術費用が決して少ない額ではないことは本を読んで知っていました。経済的な負担があっても、自分の人生にかかわることだから、自分でしっかり考えて決断するつもりで来たのですが、先生のお話を聞いた時点で心は決まりました。これまでだって歯の治療で100万を超えるお金を使ってきたことを思えば、広尾で手術を受けることは「自分にとって必要な投資」だと思ったのです

診察のあとで事務長さんから無利子で分割払いもできるとの説明を聞き、これを使わせてもらうことにしました。費用の半分は一括して払い、残りの半分は分割で、とお願いしましたが、健康を取り戻して分割払いの返済を目的に働くことができれば、それはなんと意味のある働き方でしょうか。働く目的があるということは幸せだと、つくづく思いました。

※2005年現在、費用の分割はしておりません。


●スゴイ先生に出会えた幸
手術のときのことは今でもはっきり覚えています。手術日は夏の盛りの8月4日。

手術が始まると間もなく、寒くて寒くてたまらなくなりました。看護婦さんが肩をバスタオルで覆ってくれたり、手を握ってくれたりしても、いっこうに暖かくなりません。それどころか、歯がガチガチと音をたてるほどなのです。それを見た先生は、「クーラーを止めなさい」と看護婦さんにおっしゃいました。おかげで寒さはおさまったのですが、手術が終わって先生を見ると、手術衣が汗でびっしょり。「ああ、申し訳ないことをしたなあ」と思ったものです。

摘出されたのは腺筋症の部分265グラムと左卵巣の一部3グラム、内膜ポリープが0、1グラム。それを術後に見せられて、「子宮を残して、これだけのものを取り除いてしまうなんて、先生の技術はスゴイなあ」と痛感しました。 手術の夜の痛さも忘れられません。手術のあと部屋に移ってからは、今度は暑くて暑くて、氷枕用にと看護婦さんがアイスノンを持ってきてくれたので、それをお腹の上に乗せたりして痛さを紛らわせていました。

そんなことも今はなつかしい思い出。手術のことを思い出すたびに、この時代に生きて、スゴイ先生に出会えて幸せだったと感謝しています。逆に先生からは「ここに辿り着けたのは、あなた自身が自分で情報を集める努力をしたからだよ」とほめられて、そのことも嬉しい思い出です。
術前(pre-ope)のMRI 術前(post-ope)のMRI
術前のMRIその1 術後のMRIその1
術前のMRIその2 術後のMRIその2

術 前(pre ope) 術後3カ月(post ope)
赤血球(RBC)283406
ヘマトクリット(Ht)34.539.3
血色素(Hb)8.513.5
CA-12522021.0
備考摘出物 :268.1gm
内膜ポリープ:0.1
左卵巣 :3gm



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