「二度人生を頂いたような気持ちです。」
レポートNo.42

橋口久美子(36才)
●会社の子宮癌検診で分かった筋腫
中学生の頃から生理の量も、その痛みも病的と考えたことは一度もありませんでした。

会社の検診、子宮癌検診において恥ずかしさはありましたが、さほど躊躇することもなく、人生初めての婦人科診察を受けました。元気な時、病気というものは他人事であり、自分には関係のないものだとずっと思っていました。検査をされる先生が内診を始めたとたん、エッと息をのんだ声を発したのには少々驚きました。そして、私の腹部を強く押さえて検査しながら、「これで何の症状もないのかねえ……。」と小声で呟きながら、私の顔をけげんそうに覗きこみました。先生の眼鏡の奥の目は信じられないと言ったような眼差しで、あたかも私を疑っているかのような見えました。ちょっと前まで優しく応対してくれていた先生が別人のように変わってしまったかのように思えました。

また、このとき私自身、先生から質問された頻尿、便秘の件についてさえ、子宮のことと果たして関係があるのだろうかと思っていたくらいでした。頻尿、便秘などは、健康的などんな人間にも日常生活をしている中でときとして起こりうることであり、私だけに限った特別なことではないと思っていました。したがって、先生の口から手術をしなければダメだよと言われたときの私のショックは他人に対して表現しようもなく、突然、奈落の底へ突き落とされたような気持ちになってしまいました。

しかし、こんな状況下にありながらも、時間が経過し自分自身落ち着きを取り戻したときには、楽観主義的な気持ちも少し芽生えても来ました。そのとき、先生が、ハッキリと子宮を全て摘出するとは言わずに、手術をする必要があるというようなファジーな表現をされたことは、手術をすることによって子宮を残してくれる可能性があるというような期待感を私に少なからずですが抱かせてくれました。


●うずまく不安な気持ち
大きな病院に行きなさいと、ある市民病院あての紹介状を先生は書いて下さいました。大きな病院なら子宮を残してくれる手術をしてくれるかもしれないというような楽観主義的な期待感も持っていましたが、子宮がなくなってしまうという最悪の事態も想定していました。

そんな気持ちのまま紹介された市民病院に向かいました。覚悟はできていたせいか、当日の診察は比較的冷静に受診することができました。しかし、診察が終わり自分で車を運転しながらの帰宅途中にいろいろなことが脳裏に浮かんできました。もし検診を受けずに何も知らずにそのまま過ごしていたら、この先一体どうなっていたのだろうか。

自分が子宮筋腫という病気を抱えている病人であるということがハッキリと分かってよかったと思う反面、今後この病気に対し自分自身がどのように向かい合っていったらよいのだろうか、などという不安な思いも頭の中をよぎってきました。結果として力になれるのは自分自身以外にないということがわかっているものの、自分の無力さに情けなることばかりでした。


●子宮と言う言葉はタブー
いつも私の縁談話にヤキモキしている父、そして、条件の良さそうな縁談話に対しても期待を裏切ってしまう私。過去に自分のことで家族にどれほどの迷惑や心配をかけ続けたことか。いままでのことを考えると、私のこの子宮という病気のことでさらに家族に心配をかけたくなかったという気持ちがありました。特に母にはこの子宮の病気のことを知らせたくはありませんでした。

なぜなら、私は両親が結婚してようやく6年目にできた子どもであり、母が幾度かの流産という試練を乗り越えて産んでくれた子だと母から聞いていたからです。私が子宮筋腫という子どもを産めなくなるような病気だと知ったときのその母の落胆ぶり、想像するだけでも余り有ることでした。そんなこんなで、とにかく“子宮”についての会話は我が家ではタブーとなっていました。


●大学病院での診察
前回受診した病院と同様、子宮を摘出するしかないとまた言われてしまうのか、それとも、漢方、ホルモン、薬物療法で治療を行ってみようと言ってくれるのか、大きな不安と微かな期待感を抱きながら大学病院の門をくぐりました。

自分の順番を呼ばれるまでの待ち時間がたいへん長く感じられ、その間、周囲の患者さんを見渡しながら、あの人は順調に妊娠しているのだろうか、それとも私と同様の子宮筋腫の病気に冒されているのだろうかなどと、いろいろと思いを巡らし、盗み目でお互いの腹部を見合っていました。

超音波エコーの検査結果で、筋腫の直径が前回の病院での検査より、今回の病院の検査の方が2p小さく診断されました。今度の病院の先生の方がいい先生だなどと自分にとって少しでもいい結果にほんの少しの嬉しさを覚えていました。

患者の立場からすると、少しでも自分の病気を軽く診断してくれる医師をいい医師だなどと評価してしまいます。こんなことがおかしいのはわかっていますが、病気のことで頭が一杯な立場にいる患者にとってその病気の症状を軽くみてくれる先生の方がよく見えてしまうのです。

こんな患者の心理を理解し、医師が「このまま様子を診てみましょう」とよく患者に声をかけることがあります。これも病状の重い患者への癒しの言葉であり、少しでも症状を軽く診断して欲しいと願っている患者側に立って考えている医師の気持ちを表した一つの言葉なのだと思います。

しかし、この大きな病院でも診断の結果説明は全く同じでした。子宮全摘しかないと他人事のようにあっさり言われました。私はその場で泣き出しそうになり、子宮を摘出しないで治療してくれる病院をご存知ありませんかとワラをも掴む思いでお尋ねしました。するとその若い先生は目線をそらしながら、以前にレーザーを使用しながら手術をして子宮筋腫の患者を救っていると言う医師の噂を聞いたことがあると首を傾げながら答えて下さいました。


●やっと探し当てた宝物
さあ、そこからが大変。その日の帰宅途中からもうすぐにその噂のドクターを 探し出そうと必死になりました。その医師の著書を発見しようと次々と本屋を回りました。本棚の片っ端から子宮と言う二文字を探し続け、それらしき本を買い漁りました。しかし、どの本を手にしてもその結びの章の内容は同じで、子宮を摘出されても女には変わりはないとか、大丈夫だから安心して摘出されましょうなどの意味のことが書かれたものばかりで、私の気持ちに追い討ちをかけるような本ばかりでした。

最後の手段として図書館に行って探してはみましたが、本の中に書かれている内容と言ったら同じように子宮摘出以外にないというようなことばかりで哀しくなってきてしまいました。本からその医師の存在を知るのは無理かなと諦め半分の気持ちで図書館の職員に蔵書リストを検索してもらいました。すると、現在は貸出し中ではあるが、『子宮をのこしたい10人の選択』という本があるのがわかりました。

私はそのとき宝物でも探し当てたかのような気持ちになり、その場で小躍りしてしまいました。
そして、探し当てた本の医院、『広尾メディカルクリニック』での手術をすぐに決意しました。手術は無事成功しました。私の現在の気持ちは二度人生を頂いたような感じです。

斎藤先生、病院のスタッフの皆さま本当にありがとうございました。一生忘れ得ぬ思いでいっぱいです。
術前(pre-ope)
のMRI
術後(post-ope)のMRI
術前のMRI 術後のMRI 術後のMRI


術 前(pre ope) 術 後(post ope)
赤血球(RBC)393412
血色素(Hb)(g/dl)12.413.2
ヘマトクリット(Ht)361397
備考
●横切開        6cm
●摘出物 :    715g
●両側卵巣など正常、温存


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