子宮腺筋症
「腺筋症を克服して、母になる日は目前」
レポートNo.99

細井良恵(30歳)
●痛みさえなくなれば
この体験談をみなさんにお読みいただく頃、私はママになっています。帝王切開による出産予定日は11月26日。今、お腹の中で元気に動いている我が子と対面する日を目前にして、斎藤先生に出会わなければ決して手に入れることのできなかった母となる幸せに胸を躍らせています。

間もなく生まれてくる我が子は男の子です。妊娠を報告しに広尾を訪ねた妊娠6ヶ月の段階で、斎藤先生がエコーで診て「男の子だよ」と教えてくださいました。斎藤先生はもっと早い段階から胎児の骨盤の幅や骨格で性別が分かるのだそうです。出産する病院では9ヶ月になるまで「性別は分からない」と言われていましたから、斎藤先生の診断の確かさに今さらながら驚いています。

腺筋症による耐え難い痛みにのたうち回っていた2年半前までは、この痛みさえなくなればもう何もいらないと心底思っていました。子どもを産むことなど思いもよらず、ただひたすらこの辛い痛みから逃れたいと思いつめていたのです。


●死にたくなることも
生理痛がひどくなったのは20代の半ば頃からで、婦人科で診察を受けて、それが腺筋症によるものだと分かりましたが、どの本を読んでも、腺筋症は手術が不可能でホルモン療法しか治療法がないとありました。生理になると痛くて痛くて、鎮痛剤なしには何も手につかない状態が続きました。

平成12年6月に高校の同級生の彼と結婚。結婚後も生理痛は軽くなるどころかますます強くなりました。その頃は会社に勤務していましたので、鎮痛効果の強力なボルタレンを6時間ごとに使って、どうにかこうにか仕事と家事をこなしていましたが、鎮痛剤が切れた時の痛さは言葉では言い表すことができず、衝動的にベランダから飛び降りてしまおうかと思ったことも1度や2度ではありません。

こういう状況のなかで、思いがけず結婚して半年後に妊娠。ところが、診察を受けた近所の産婦人科で「子宮が相当大きくなっている。胞状奇胎の疑いがあるので、すぐに手術を受けるように」と言われ、あの痛さを思えばとても正常な妊娠をしているとも思えず、翌日、子宮の掻爬手術を受けました。手術の結果、胞状奇胎ではなかったとのことでしたが、この時は掻爬してしまった後悔よりも、腺筋症でも妊娠できることが分かって安心する気持ちのほうが強かったのです。


●インターネットで広尾へ
相変わらずボルタレン頼みの日々が続きました。ボルタレンは劇薬なので、医師の処方箋がなければ薬局では売ってくれません。そこで、近所のおばあちゃんが膝の痛み止めに使っているのを分けてもらったりして、とにかくボルタレンを確保することが先決でした。

いつまでこういう状態が続くのだろうと暗澹たる気持ちで迎えた翌春、社内の異動でパソコンを使う部署に移りました。そこでインターネットの使い方を覚え、腺筋症の情報を集めようと検索したところ、真っ先に出てきたのが広尾のサイトだったのです。

広尾のホームページに紹介されている元患者さんの体験談に目を奪われました。そこには私と同じように腺筋症の痛みに苦しみ、広尾で子宮保存の手術を受け、そして無事に妊娠・出産をしているケースがいくつも紹介されていたのです。腺筋症は手術ができないと聞いていたのに、ちゃんと手術で治っているではないか、そのうえ子どもまで…。急に目の前が明るくなりました。

すぐに広尾に初診の予約を入れ、初診で斎藤先生のお話を聞いて納得、手術の申し込みをしました。すぐにでも手術をしてもらえると思っていた私は、手術が1年先になると聞いてびっくり。それまでにあの痛さを何回繰り返すのだろうと考えたら、手術までが耐え難いほど長く感じられました。


●メールで痛さをアピール
手術日を待つ間、毎月の生理が終わるたびに、斎藤先生にどれだけ痛かったかをメールでアピールすることにしました。そうでもしないと、手術予定日までの不安と期待の入り交じった気持ちを落ち着かせることができなかったのです。

メールでのアピールが功を奏したのか、手術予定日より6ヶ月も早く、「キャンセルが出たので、繰り上げてオペをしませんか」との連絡が事務長さんから入りました。願ってもないことで、主人にもすぐに連絡し、急遽7月18日に手術ということになりました。

手術に要した時間は1時間25分。これはあとで先生が作ってくださったファイルの中の手術記録を見て分かったことです。摘出したのは、腺筋症の疑い143グラム、内膜ポリープ2グラムの計145グラム。袋詰めにして病室に運ばれてきた摘出物を袋の上から触ってみたら、コリコリと硬くて、思わず「こいつめ!、今までさんざん痛い思いをさせて!」と力を込めてしまいました。こんな硬いものが子宮の中に出来ていたのでは、たとえ妊娠したとしても胎児が育つわけはないと思いました。


●手術から1年9ヶ月で妊娠
間もなく生まれてくる子どもを妊娠していることが分かったのは、手術から1年9ヶ月後の今年4月。広尾での手術のあと、両親は孫の誕生を心待ちにするようになりましたが、私には妊娠を切望しすぎてはいけないと自戒する気持ちがありました。

あの辛く苦しい痛みから解放されただけでも充分にありがたくて、もし子どもに恵まれなくても夫婦二人の生活を楽しめばいい、と思っていたのです。不思議なもので、そんな気持ちでいると妊娠するものなのですね。

しかし、「この妊娠は奇跡に近い」と斎藤先生。私のような重症の腺筋症を克服しての妊娠はきわめて稀なのだそうです。 近所の産婦人科で妊娠を確認してから、出産に備えてY大学病院に通院することにしました。この大学病院では毎週月曜日が「ハイリスク妊婦の日」で、子宮保存手術を受けている私も当然ハイリスク妊婦です。それにしても大学病院の医師というのは、どうしてこうも妊婦を不安にさせるような怖い話ばかりして聞かせるのでしょう。手術によって薄くなった子宮内膜が破裂する恐れがある、手術で出来た傷口に胎盤が引っかかる恐れがある…。それゆえハイリスク妊婦なのだから、そうならないように対応してくれればいいのに、と何度思ったことか。

妊婦健診にはいつも主人が一緒です。主人は毎回ビデオカメラを持参して、診察の様子やエコーに写る胎児の姿をVTRにおさめています。もちろん最初に「ビデオを撮っていいですか」と医師に断りますが、たいていは一瞬不本意な表情を浮かべますが、ダメだと言う医師はいません。これは我が家の大切な大切な記録です。

エコーに写っていた子どもがどんな顔をして生まれてくるのか、本当に楽しみです。誕生の瞬間から、主人はまたビデオカメラを回すことでしょう。このような幸せをもたらしてくださった斎藤先生に感謝しつつ、誕生後の様子もまたお知らせしたいと思っています。
術前(Pre-OP)MRI
術前MRI画像1 術前MRI画像2
術前MRI画像3 術前MRI画像4

術後(Post-OP)MRI
術後MRI画像1 術後MRI画像2
術後MRI画像3 術後MRI画像4

摘出物
摘出物1 摘出物2
摘出物3 摘出物4
内膜ポリープ1 内膜ポリープ2
保存子宮
保存子宮

  術前(Pre-OP) 術後(Post-OP)
赤血球(RBC) 391 462
血色素(Hb) 10.6 13.0
ヘマトクリット(Ht) 30.8 40.2
CA-125 66.4u/ml 17u/ml
備 考 *子宮腺筋症(内性子宮内膜症)
 (Adenomyosis of Uterus)
*術後妊娠、出産
*20代前半より生理痛がひどく、スプレキュア、ホルモン注射で治療したが憎悪のみだった。



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