「患者さんにインタビューしてきたライター阿部が、5月19日、患者となって手術を受けました」・・・レポート・その1
レポートNo.9

阿部まさ子(47歳)
●ミイラ取りがミイラになって・・・
皆さんにお読みいただいているこのホームページの記事を書くために、毎月のように広尾MCで斎藤先生のお話をうかがい、患者さんにインタビューしてきた私が、全く思いがけなく子宮保存手術を受けました。今日は術後12日目です。まず、手術を受けることになったいきさつからお話しましょう。

「えーっ?!、私も子宮筋腫?!」、近くの内科医で「お腹にかなり大きなしこりが触れるので、婦人科に行くように」と言われて、まっさきに頭をよぎったのが「えーっ?!」という思いでした。内科医に行ったのは、連休中から下腹痛と腰痛が続いていて、なんとなく気になったからでした。

ホームページの取材を通して、子宮筋腫についての知識は少なからず持っているつもりでした。友人のなかには筋腫のある人が何人もいて、彼女たちには「ホームページを見て。いつでも広尾を紹介するから」などと言っていた私自身に、子宮筋腫が、それもお腹いっぱいに膨大している筋腫があろうとは、全く予想もしていないことでした。

なぜ、これまで気がつかなかったのか。それは月経の異常がなかったということに尽きます。ほぼ28日周期でやってきて、生理痛というほどの痛みを感じることもなく、4日間くらいで終わってしまう。子宮がん検診を何度か受けていますが、触診で筋腫を指摘されたこともありませんでした。


●「情報力」という味方
「婦人科へ行くように」と言われて、すぐに斎藤先生に電話、「私、患者になりそうです」。その足で広尾に出向いて、エコーによる診察を受けました。「立派な筋腫ができてるよ」と、先生がエコーに映った筋腫の輪郭を線でなぞってくれました。その大きさにビックリ、「800グラムくらいはある」という先生の言葉に2度ビックリ。興奮状態のなかで、すぐに手術を受けることを決めました。

私は幸せな患者です。婦人科を転々とすることもなく、即座に子宮保存手術を受けるという選択ができたのは、広尾の情報に最も近いところに居合わせた「情報力」のおかげです。もし、広尾を知らなければ、私も多くの患者さんが辿ったように、大学病院に行き、「この大きさでは全摘しかない」と言われ、途方に暮れてしまっていたことは容易に想像がつきます。

情報のあるなしによって選択に差が生じることを、今回、身をもって経験しました。全摘手術か、保存手術か、それとも決断を先延ばしするか、その選択は本人が決めるべきことではありますが、少なくとも選択肢のひとつに子宮保存手術があり、保存手術のもつ意味を多くの子宮筋腫患者が知ったなら、子宮を失わずに済む女性は確実に増えるだろうと思います。インターネットのホームページ上に「子宮筋腫オンライン」を開設している目的は、まさにこの点にあるのです。


●MRIで見た無数の筋腫の塊
広尾での初診が5月7日。手術を前提とした検査を5月10日に佐々木病院で受けました。佐々木病院というのは広尾と同じ横浜市鶴見にある総合病院で、広尾の術前、術後の検査を引き受けています。MRIやCTの画像を検査終了後すぐに手渡してくれる良心的な病院で(ふつうは早くて半日、病院によっては数日を要すところもあります)、この検査結果を持って広尾に行き、画像をもとに斎藤先生から病変部や手術についての詳しい説明を受けるのです。

MRIやCTの画像は、エコーで見るよりはるかに確実に子宮のただならぬ様子を映し出していました。無数の筋腫の塊が画像の濃淡から見てとれます。濃い塊は硬い筋腫、淡い塊は比較的軟らかい筋腫だと先生が説明してくださいました。「私のは筋腫のレベルでいうとどれくらいですか」と訊ねたら、「9くらいでしょう。これまで自覚症状がなかったのは、よほど運のよいところにできていたということ。でも、放置しておけば早晩、なんらかの異変は起きます」とのこと。目の前のMRIやCTの画像を見れば、先生の言葉に納得せざるを得ません。

医療におけるインフォームド・コンセントの必要性についてはよく言われます。今回、患者として先生から病状と治療についての詳しい説明を受け、納得して保存手術を選択したことは、まさにインフォームド・コンセントであると実感しました。そして、医師の言葉を裏付けるものがMRIやCTなどのデータであり、データに基づいた説明がインフォームド・コンセントに導くものであることを知りました。多くの患者さんが他の病院で味わってこられた医者不信は、この点が欠けているために生じるのだと思います。


●まな板のコイとなって
手術は5月19日の月曜日。初診から12日目の手術というのは随分早いと思われるかもしれませんが、自分の病状がわかった以上、一刻も早く解決したいと思ったこと、斎藤先生の技術力に全幅の信頼をおいていたこと、この2点が早い手術を決断させました。

19日は9時半に入院。直ちに個室に通されて、手術衣に着替え、手術前の点滴、アレルギーチェック、浣腸、剃毛などの処置を受けました。手術の30分前に仮麻酔の注射、午後1時に手術室に入り、麻酔医が腰椎麻酔を施し、斎藤先生の執刀で手術は始まりました。左手には点滴、右手には自動の血圧測定機が取り付けられています。この血圧測定機は10分間隔で自動的に血圧を計る仕組みになっていて、測定機で右腕が締め付けられるたびに「ああ10分たったのだなあ」と知ることができます。手術台の上で、10分間隔に血圧計が作動するのをいくつ数えたことか。6回で1時間、12回で2時間…、腰椎麻酔ですから、もちろん意識はありますが、頭の中は眠たいようなぼんやりとした感じで、そのうち回数を数えきれなくなって「ずいぶん長いなあ」と思っていました。

1時に始まった手術が終わったのは4時半でしたから、長い手術の部類に入るかもしれません。摘出までに2時間、その後の処理に1時間半かかったと後で聞きました。摘出しているときの引っ張られる感じや縫合しているときの圧迫感のようなものははっきりとわかりました。

摘出した子宮筋腫は895グラム、それに腺筋症の疑いのある部分が10グラム、内膜ポリープが1グラム、内膜筋腫が1グラム。先生が思わず「開けてみたら、子宮の病気のスーパーマーケットだったよ」とおっしゃったように、ありとあらゆる種類の病変部分が摘出されました。「全部で907グラムありました」という看護婦さんの声を聞きながら、よくもまあ、こんなにもたくさんの異物を子宮にため込んで、今日までたいしたトラブルもなく過ごしてきたものだ、と手術台の上で驚きのような安堵のような思いにとらわれていました。

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