「あきらめないで! 子宮を残す事は出来るのです」
レポートNo.28 

藤井久美(48歳)
●「お願い!今だけでも止まって」
「筋腫はあります。でも小さいので何もしなくても大丈夫です。一年に一度の定期検診は受けるようにしてください。」4〜5年前、定期検診の際に告げられてからこの病気とのつきあいが始まりました。それから2〜3年は生理の量が多いため貧血の治療だけは続けていました。そして時々2〜3ヶ月ぶりに生理が来たときなど10日たっても出血が止まらず、産婦人科へ行っては止血剤などを注射してもらったりして、その場をしのいでいました。昨年の9月のはじめ、その夜も前日から始まった生理がひどくなり始めていました。

10時ごろ電話のベルが鳴り、大学生の息子が運転していた車が追突されたという交通事故の知らせが入りました。我が家は母一人子一人のためその日から私は、いろいろ事務手続きに追われました。ですがこれまでにない大出血は、止血剤を打っても打っても利いてくれません。「お願い! 今だけでも止まって」と叫びたいような気持ちでした。


●全摘と言われて・・・
このころ通っていた産婦人科の先生は、高齢の優しい先生でした。極度の貧血になってしまった私をとても心配して、ホルモン療法でとりあえず出血を止めようということになりました。そうしているうちに生理があがるだろうという見解でした。半年位続けている間、生理がなかったので体力的にもだいぶ落ち着いていました。しかしあまり長い間、その薬を続けると副作用が出るというのでやめて様子を見ることになりました。

このまま生理が来なければいいなという思いとはうらはらに、2〜3日で生理は来てしまいました。そして、また止血と貧血の注射に通う日々が始まりました。3月、4月と10日間ほど、5月は2週間でやっと止まり、こんなことをいったいいつまで続けるのだろうと、とても不安になっていました。先生も「筋腫は大きくないんだけどなあ、これ以上ひどくなるようだったら大学病院に紹介状書くから手術して取ってしまったほうがいいかもしれないね。」と初めて全摘のことを口にされました。私はぎょっとしました。そして年齢48歳で子供も一人いる私には、手術を拒否する言い訳がないことに気づきました。


●広尾メディカルクリニックのホームページに釘付けに
何の対策もないまま2週間たってまたひどい出血が始まりました。以前にも増してすごい勢いです。このままでは出血多量で死んでしまうのではないかという危機感にも襲われました。どこかに私を救ってくれるところはないかと、すがるような想いでインターネットを覗いてみました。そして子宮筋腫で検索した画面に現れた広尾メディカルクリニックのホームページに釘付けになっていました。プリントアウトした書類を読み終えてすぐクリニックに電話しました。とにかく行って診察を受けてみたい、こんな方法があったなんて、どうしてもっと早く調べてみなかったんだろうと、せきたてられるような気持ちで翌日クリニックに向かいました。

その時の体調はかなり悪く、30分に一度くらいでしょうか乗り換え駅ごとにトイレに行かなければいけない状態でした。階段は2〜3段上っただけで苦しくなってしまいました。やっとたどりついた所は子宮を残したい女性の駆け込み寺という印象からかけ離れたとてもきれいな建物でした。

二階からゆっくりと降りてきた斎藤先生は、白衣など着ていなくてお医者様っぽくない方でした。診察室でも産婦人科ではお決まりの内診をするあの屈辱的な台などなく、普通のベッドでお腹の上からエコーで調べるだけでした。先生の診察では子宮の外側がりんごぐらいの大きさになっていて多分、腺筋症でしょうということでした。「だいじょうぶ 残せますよ。」と自信たっぷりに言ってくださいました。あとでいろいろな資料で調べたところ腺筋症の治療法は全摘出以外にはないとなっていました。私は先生の言葉を聞いたとたん「お願いします。手術をしてください。」と言っていました。

手術前にはMRIなどの詳しい検査が必要とのことで、 クリニックからも遠くない鶴見駅の近くの病院にさっそく翌日検査の予約を入れてくださいました。クリニックから最寄りの駅までの道を歩きながら、この体の状態で世田谷の自宅まで戻り、明朝また鶴見まで出てくるのはとても無理だと思いました。クリニックに電話すると、明日検査をする病院に近いホテルを予約してくださいました。その夜はホテルの部屋で先生にいただいた本(『子宮を残したい10人の選択』)を一気に読みました。世の中にはもっともっと大変な人がたくさんいるんだなあ、がんばらなくちゃと、相変わらずの流れるような出血に一晩中トイレに通いながら思っていました。


●誰に何を言われようと子宮を残しておきたい
翌日、検査の結果を見て手術の日は二週間後に決まりました。それから私の頭の中は、これからの二週間をどうやって過ごそうかという事でいっぱいになりました。手術後一週間休むためには、しなければならない仕事がたくさんあります。でも今の私はとても働ける状態ではありません。働くというより動くことさえつらい状態でした。

先生に相談して検査を受けた病院に入院させてもらって輸血をする事になりました。輸血を4日間して、体調が良くなったのかやっと出血が止まってくれました。救われた思いで手術日までの日を仕事に費やす事ができました。入院して驚いた事はその病院の婦長さんが挨拶に来られたとき、「どうして子宮を残す事にしたの?私だったら取ってしまうのに」と言われた事でした。この言葉は手術を決心してから友人や身内からも言われましたが、医療に従事している女性からの言葉とはとても思えない事でした。

私は斎藤先生の本や朝日メディカルの記事などを彼女に見せました。「そりゃあ本にはいいように書いてあるに決まってるじゃない。」と頭から信じてないような口振りでしたが「いいから読んでみて!」と強引に渡しました。翌日また訪れた彼女は「昨日はすみませんでした。よくわかりました。」と謝っていました。

日本人女性の4人に一人の割合のポピュラーな病気に対する一般の人の認識とはそういうもののようです。でも誰に何を言われようと子宮を残しておきたいという決心は変わる事はなく、斎藤先生以外に私を救ってくれる人はいないと信じて手術台へ向かいました。


●子宮が残った痛みだと思うとがんばる勇気が湧いてきました
手術中、先生はずっと語りかけてくださいました。話題は趣味のことなどにも及び、「先生はゴルフですか、それともテニスかしら」とお聞きすると「僕の趣味は手術だよ、筋腫で苦しんでいる女性を救ってあげることができるなんてすばらしいじゃない」そして「子宮だから取っていいということはない、取ってもいい臓器なんてひとつもない」と続けられました。 私は百万の味方を得たような気持ちになりました。

そして手術が終わって一晩つらい夜を過ごすことになるのですが、私のからだの中に確かに子宮が残った痛みだと思うとがんばる勇気が湧いてきました。これがもし、全摘の手術だったとしたら、涙と絶望の一夜だったに違いありません。


●1週間の入院
退院までの毎日は点滴などの多少不便な点はあるものの忙しい日常を逃れて訪れたペンションで休暇を過ごしているような気分でした。何かの縁で同じ日に手術を受け隣の部屋になった宮部さんとは40代同士(とはいっても実は8歳も私のほうが年上なのですが)血液型も同じO型ということもありとても仲良しになってしまいました。

手術は、月曜日、退院はその週の土曜日です。目的志向の強い私たちは、火曜日の点滴棒を押しながらの歩行、水曜日の二階までの階段上り、などリハビリプログラムを次々にクリアし、「私たちって若い人たちに負けてないよね」と一緒に食事しながら自画自賛してはおなかの傷を押さえて笑い転げていました。

またクリニックにはこれから手術を受けられる方や術後の検診の方、遠く外国から診察を受けにこられる方などが頻繁に来院し、そういう時に「よかったら一緒にお茶を飲みませんか」と斎藤先生から声がかかります。おしゃべり好きの私たち?は、そのたびにいそいそと二階のリビングへの階段に挑戦するのでした。


●エアロビクスや水泳、ゴルフも一ヶ月もたたないうちに始めていまし
退院してから元の生活に戻るのはそれぞれ個人差もあるのでしょうが、私の場合は仕事がデスクワークでしかも職場が近くにあるということもあり、土曜日に退院して月曜日から出社しました。なんとかなるものです。心配なことがあるとまず、よき隣人だった宮部さんに電話をします。それで解決がつかないときはすぐに斎藤先生に電話かFAXで問い合わせました。先生はいつでも質問に答えてくださるのでとても安心できました。

そんな調子で回復も早く(年の割には)エアロビクスや水泳、ゴルフも一ヶ月もたたないうちに始めていました。そして、もうこないのではないかと危ぶまれていた生理も二ヶ月後に来ました。四ヶ月後の今では貧血もないせいか今までに経験したことのない元気な体になり恐いくらいです。

私は腺筋症だったのですが、手術前に先生が 「この病気の人は手術するととっても元気になるよ」と言われていた言葉どおりでした。手術を受けてよかった、あの時、広尾メディカルクリニックの斎藤先生に出会えて本当によかったと思っています。
術前(pre-ope)のMRI 術後(post-ope)のMRI
術前のMRI 術後のMRI


術 前(pre ope) 術 後(post ope)
赤血球(RBC)(x104/ul)273512
血色素(Hb)(g/dl)8.015.1
ヘマトクリット(Ht)(%)23.645.8
備考
摘出物 :
 子宮腺筋症       30g
 子宮筋腫         15g
 内膜ポリープ    0.1g

腺筋症 筋腫 内膜症ポリープ
腺筋症筋腫内膜症ポリープ


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