「子宮をあきらめかけている方はもう一度考えて」
レポートNo.52

後藤旬子(30才)
●私が全摘を望んだ理由
今回,無事術後の検査を終えることができました。斎藤先生,広尾メディカルクリニックのスタッフの皆様および私の回りで支えてくれた家族や友人たちにこの場を借りて深く御礼申し上げます。

広尾で手術を受けられた方々の中で,私のようにもともと子宮全摘を望んでいた人は少ないのではないかと思います。しかし,何故そう希望していたのかを突き詰めると,これは決して私だけにあてはまる話ではないことに気づきました。後で考えると,私は世の中の情報に完全に翻弄されていたのでした。そんな私のケースをお話ししたいと思います。

筋腫が見つかり地元の病院で手術の話が出たとき,私が真っ先に困ったな…と思ったのは,子供のことでも,将来の自分の体のことでもありませんでした。私の母がその4年ほど前に子宮癌で他界しており,娘の私までが子宮の病気であると告げれば,父や親戚の方々にどれだけのショックを与えるかと思い,それが何よりつらかったのです。

医師からは子宮癌にも遺伝の影響がある,筋腫は再発するので手術を繰り返すことになる,子宮を全摘しても体に悪影響は全くない…などの説明を受けました。幸か不幸か私たち夫婦はもともと子供は作らないことで合意していましたし,私は心臓が丈夫ではないため複数回の手術を耐えられるか心配であったことと,鬱的な精神状態に陥りやすく,このまま子宮という爆弾(すでに筋腫になり,またいつ癌になるかわからない!)を抱えていては,精神的に参ってしまう恐れがあることなどから子宮を残すのは不安でした。

また家庭の医学を読んでも,子宮を残すかどうかは本人が出産を望むか否かにかかっており,全摘しても生活に影響は全くないと説明されていたので最終的には全摘を望みました。親や親戚が知るところとなる前に,こっそり子宮を闇に葬り去ってしまおうと考えたのです。

ところが,いざ全摘をしてくださいと話すと,医師たちはあなたは若いから,子供が欲しくなるかもしれない,子供が欲しくない夫婦なんて普通じゃない…といった理由で手術を拒否されました。それならどうしたら良いのか訪ねても,筋腫核出術を行い,再発するまでに子供を作りなさい,再発したらまた手術をすればよいと繰り返すばかり。どうしても子供を産ませるつもりらしいのです。

挙げ句の果てには,そんなに手術がイヤなら薬を使えばいいじゃないかと怒鳴られて唖然としました。病気を治療して健康になるという話からはほど遠い,ごくプライベートな部分での言い争いが続き,医学的な説明を求めても専門用語の羅列で話の主導権を握ろうとする医師の態度には嫌気が差しました。3件目に友人の紹介で,インフォームドコンセントでは定評があるという東京J大学病院を受診しましたが,医師の説明も対応もそれまでの病院と全く変わりなく,最終的には拒絶されてしまいました。

そうこうするうちに,私は完全にノイローゼのような状態に落ち込んでしまいました。大きな筋腫を抱えて生活している女性であれば,だれでもそのような精神状態になり得るとは思います。ましてやこの間の医師とのやりとりからは,明るい将来など考えることはとてもできない状態で,ひどい無気力と憂鬱感にさいなまれました。とにかく自分の中の子宮の存在自体が恨めしく,終いには嫌悪感さえ感じ始めました。


●広尾との出会い
そんなある日,インターネットで広尾のHPを見つけました。初め『子宮を残したい私たちの選択』は,私にとって関係ない話と思ったのですが,鮮明なMRI写真や患者さんの血液データまで載せてあるHPは他にはなく,ついつい釣られて読み進むうち,いくつもの疑問が私の中にわき起こりました。

子宮をとったら体に悪いの?薬は効かないの?筋腫が再発しない手術もあるの?今までの医師たちの話とはかなり違いがあるので,にわかには信じられませんでした。そこで,図書館や書店で筋腫の本を探しまわり,とにかくデータを集めてみようと思ったのです。

また,斎藤先生にも直接メールで疑問をぶつけてみることにしました。その結果はっきりしたのは,今までの医師たちの説明や本に書いてある筋腫治療に関する話しと,斎藤先生の説明の間には非常に重要な部分で違いがあるということ。そして,斎藤先生の述べておられることを裏付ける話が,全摘手術を受けた患者さんの体験談から見つかったのです。斎藤先生のおっしゃるとおりなら,子宮を全摘すれば卵巣の退縮が生じるため心身ともに快適な健康生活など到底望むことなどできそうにありません。

私が望んでいたことは,少しでも健康な状態で生活したいということだったはずです。斎藤先生の方法によって,子宮を残した上で健康な生活がおくれるのであればこれ以上の選択はないのではないでしょうか。


●手術の決心
先生に初めてお会いした時のことは忘れません。たくさんの情報と医療に対する不信感で頭をいっぱいにし,しかしどこかでこの先生に賭けたい,救われたいという期待もあって大変複雑な心境でした。

一通りの説明の後,先生は「子供を産まないことと,産めないことは違うんだよ」とおっしゃいました。その言葉が私の中で決定打となり,手術の決心となったのです。

そして,やせぎすの私の体から600gの筋腫が摘出され,手術は終わりました。あまりに長い間,大きなものを抱えていたために,急に本来の位置に返った胃腸が動き出してくれず,入院生活の後半は吐き気と嘔吐に伴う傷口の痛みとの戦いでした。それでも,もし子宮をとっていたら体も心もこんな痛みでは済まなかったと思うと,広尾で手術を受けられたことに感謝し,耐えなければいけないという気持ちになりました。

不思議なことに手術後,子宮が元気になったような気がしてあんなに心配だった子宮癌の恐怖が薄れてしまいました。ちなみに子宮癌の遺伝的な要因は立証されていないそうです。私の選択を,死んだ母もきっと喜んでくれたのではないかと思います。


●振返ってみて
全てが終わった今,振り返ってわかることがあります。世の中で定説として言われていることが,必ずしも正しくはないということです。私は計らずしもそのからくりに引っかかってしまい,危うく自分の体を希望とは反対の不健康な方向に持っていくところでした。

医学界の通念が,患者や医師の治療に関する選択肢をせばめているとも言えると思います。そのことは,情報を鵜呑みにして自分で考えようとしなかった自分への反省点としても深く受けとめたいと思います。 広尾には心から感謝しています。ありがとうございました。そして,私のような理由で子宮をあきらめかけておられる方には,もう一度考えていただけたらと思います。
術前(pre-ope)
のMRI
術後(post-ope)
のMRI
術前のMRI1 術後のMRI1


術 前(pre ope) 術 後(post ope)
赤血球(RBC)486456
血色素(Hb)(g/dl)13.813.2
ヘマトクリット(Ht)41.139.2
CA19-111011
備考
●生理時:Hb 7
●摘出物:平滑筋腫        600g
          内膜ポリープ    0.1g
          腺筋症           10g


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